心を改めた虎
昔、山西省の村に七十歳すぎの趙お婆ちゃんと息子が互いに助けあって暮らしていました。その村の一家は、柴を刈って生計をたてていました。
連なる山々の峰は、獣達にとってとても住みやすい所でした。それで人々は山の上の方の柴を刈る時、集団で行きます。
ある日、息子は一緒に行く人を捜しましたが、誰もいなかったので、一人で山に柴を刈りに行きました。
日が暮れたのに、趙お婆ちゃんは息子が帰って来ないので、心配になってきました。「お前、早く帰って来て」と出入り口の前で、大声で叫びました。
彼女の叫び声を聞いて近所の人々が驚きました。彼らは一緒にたいまつをつけて、息子を捜しに行きました。山の中を探していると、ズボンの切れ端をついに見つけました。たいまつで照らすと、息子がいつも穿いていたものでした。みんなはなにかあったに違いないとドキッとしました。
趙お婆ちゃんは、息子が虎に食べられたことを聞いて嘆き悲しみました。
隣の家のお爺ちゃんは「昔から、お金を借りた人は返さなければいけない。人を殺した人は死刑だ。虎も人を食べたのだから、役人は虎を捕まえて死刑にしなければいけない」とため息をついて言いました。
趙お婆ちゃんはそれを聞いて、県の役所の入り口に行き、太鼓を叩きました。県の役人は直ぐに門を開けどうしたのかと尋ねました。
趙お婆ちゃんは「虎が私の息子を食べてしまった。虎を捕まえて下さい」と長官に言いました。
長官はそれを聞いて、お婆ちゃんに同情しましたが「虎は獣なのでどのように捕まえればいいのだろう」と言いました。お婆ちゃんはそれを聞いて「息子の死は理不尽だ」と泣きわめきました。
長官はお婆ちゃんが泣くのを見て可哀想になり、その場にいる役人たちに向かって「だれか虎を捕まえて来てくれないか、捕まえたら賞金を与える」と言いました。役人達は行きたくないので、互いに譲り合いました。
長官が困っている時、外から、蒋勇という役人が入ってきて胸を叩いて「私が虎を捕まえに行きましょう」と言いました。
「半月の内に、虎を捕まえるように」と長官は言いました。
半月たちました。
蒋勇は虎を捕まえていません。
規則により彼は50回以上叩かれる処罰を受けました。
長官は再び蒋勇に半月の内必ず虎を捕まえてくるように言い渡しました。
期限を何度も設定しても彼は虎を捕まえることができません。今度虎を捕まえる事が出来なかったら、蒋勇は今まで以上たたかれる体罰をうけるかもしれません。
この日、蒋勇は町の外にある泰山の社に行きました。社の神様の前で、趙お婆ちゃんの息子が虎に食べられたこと、自分が虎を捕まえることができないのでたいへん困っていることを訴えました。
ちょうどその時、社の外から、突然唸り声が聞こえて来ました。一匹の大きな虎が社の門の前に来て、腹這いになって動こうとしません。
蒋勇は虎のこのような様子を見て、虎に悪気がないと思いました。そこで虎に向かって深々とお辞儀をしました。頼むような口調で「虎よ、あなたは趙お婆ちゃんの息子を食べたの」と言いました。虎は何度も何度も頷きました。
蒋勇は虎に「あなたが趙お婆ちゃんの息子を食べた後、お婆ちゃんは可哀想なことになっているのです。あなたを捕まえて、長官の所に連れて行っていいですか」虎は又何度も頷きました。
蒋勇は驚き喜びました。虎の前に行き、腰から縄を取り出すと、虎の首に縄を括り、長官の所へ引っ張って行きました。長官はそれを聞いて、すぐに役所にかけつけました。
長官は虎に「趙お婆ちゃんの息子を食べたのか」と質問しました。
虎は頷きました。長官は又「殺人は命をもって償ないといけない。覚悟はできているのか」と言いました。虎は何回も何回も頷きました。
長官は虎にどのようにして罪を償わせようかと考えました。趙お婆ちゃんの独りぼっちで貧しい姿を見て、ある考えを思いつきました。
長官は虎に「おまえから息子を食べられて、趙お婆ちゃんは独りぼっちになり、彼女を養ってくれる人がいなくなった。おまえが生活の面倒を見てくれるなら、解放しよう」と言いました。
長官が言い終わると、虎は何回も頷き、尾を振っていました。長官は虎を解放しました。
次の日の朝早く、趙お婆ちゃんは敷地の中に一匹の猪の死骸を見つけました。趙お婆ちゃんは村のみんなに聞きましたが、誰も自分ではないと言いました。その後、村の人々は猪の体に虎の噛み跡があるのを見つけました。
隣の人の助けを借りて、趙お婆ちゃんは猪を町に売りにいき、お金に換え、自分の必要なものを買いました。
その後、趙お婆ちゃんの敷地の中に、虎から噛まれた鹿、野ウサギなどの動物や、布、服、お金などもありました。趙お婆ちゃんは幸福な日を過ごしました。
その後、虎は昼間にも来るようになりました。趙お婆ちゃんも虎を怖からなくなりました。虎はいつも家のひさしの下にうつ伏せになり、お婆ちゃんは虎を撫でていました。それはまるで親子のようでした。
数年がたちました。趙お婆ちゃんは亡くなりました。虎はお婆ちゃんの前に伏せて大声で泣き、三回礼をして、大変悲しそうに山の方に駆けて行きました。
その後、人々はこの虎を見ることはありませんでした。人々は虎が自分の間違いに気づいて改心したことを記念して、趙お婆ちゃんのお墓の側に「義虎祠」を建てました。
今でもまだあるとのことです。