福石観音(佐世保市)

平成18年のあるとき。
佐世保での仕事は気疲れすることばかり。
唯一の気分転換が、寺社巡りだった。

一番心が落ち着き、何度も訪問した場所。
それが、福石観音だ。

佐世保駅から国道を有田方面に向かうと、左手に大きな鳥居が見えてくる。
行基や空海に縁のある真言宗の寺院で、正式名は清岩寺という。

長い参道が続く。
ところどころに、石仏が安置されている。


本堂の前に、裏手にある洞窟を見に行く。
洞窟へ行くには、本堂手前から急な階段を上らないといけない。
階段の途中からは、本堂を一望することが出来る。


階段を上ると、小さな公園がある。
公園は木々に囲まれているが、住宅地がすぐ近くまで迫っている。
静かな雰囲気ではあるが、すぐにも開発の波に呑まれそうだ。

公園から林の中にある階段を下りて、洞窟へ向かう。
洞窟には、空海が安置したとされる五百羅漢がある。

洞窟というよりも、屋根といったところ。
佐賀県唐津市相知町にある鵜殿石仏群と似ている。
いずれも空海に縁がある。


この洞窟周辺は、とても神聖な雰囲気が漂っている。
何かと殺伐とした印象がある佐世保だが、ここは違う感じがした。


洞窟を後にして、本堂へ向かう。

本堂には、行基が彫ったとされる十一面観音が安置されており、九州七観音の一つに数えられている。

岩肌に無数の石仏が安置されている。
昔から多くの人々の信仰を集めてきたのだろう。

毎年8月8日から11日まで、福石観音千日祭が行われる。
期間中は、本尊の御開帳があり、多くの参拝客で賑わう。
この期間に参詣すると四万六千日の参詣と同じ功徳があるとされている。

気疲れが多い佐世保での生活であったが、神社仏閣を訪れると元気になれた。
気分転換の方法を知っていることは、大事なことだ。
どんなことでも良いので、趣味は持っておきたい。


福石観音と同じ空海に縁がある場所が、もう一つある。
佐世保市北部、瀬戸越の付近にある眼鏡岩だ。

国道沿いにある西蓮寺を抜けて眼鏡岩へ向かう。


西蓮寺の裏手へしばらく歩くと、公園がある。
その公園の奥に、眼鏡岩はある。


高さ10m、長さ20mの巨大な岩に直径8mと5mの穴が開いており、鬼が蹴り抜いたという伝説が残っている。

岩肌に残る千手観音像と梵字は、この地に仏縁を感じた弘法大師が彫ったと言われる。
残念ながら梵字も千手観音像も確認することが出来なかったが、空海でなくとも神秘的なものを感じることは出来た。

そういう雰囲気が漂う場所である。

数十万年前は、この辺りは海だった。
眼鏡岩は、海だった頃に波の浸食により出来た海食洞穴だと言われる。

佐世保は、明治以降に軍港として急激な発展を遂げた都市だ。
そのため歴史が浅いような印象があるが、福石観音や眼鏡岩のように千年を超える歴史を持つ文化財も意外と多い。
転勤等で佐世保市に住むようになった人で、街の喧騒に疲れた人には、ぜひ福石観音や眼鏡岩へ行くことをお勧めしたい。
きっと何かを得ることが出来るはずだ。理屈ではない。
こういう場所があるお陰で、佐世保生活を無事に終えることが出来た。

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