長崎街道(久山茶屋)

平成21年6月21日。
知り合いに誘われて、諫早市久山町を訪れた。

「町で饅頭買うて、日見で火もろうて、矢上で焼いて、古賀でこんがらかして、久山でうち食うた」という歌がある。

この歌のとおり、かつて、ここには長崎街道が通り、久山茶屋という茶屋があった。
現在は、中核工業団地や高速道路が造られているが、旧街道沿いの趣を残そうと地元住民が景観維持に努めている。

旧街道上にある歩道用のトンネルに、長崎街道をテーマに絵を描いた「久山茶屋 長崎街道絵巻通」が完成した。
今日は、その完成記念式典の日である。

会場には、地元の人を中心に、たくさんの人が集まっていた。
県議会議員や市議会議員のほか、国会議員や市長さんまで出席しており、ものものしいイベントになっていた。

式典は、久山町に伝わる伝統芸能である浮立で始まった。

絵を描いた堤けんじさん。
狸を擬人化した狸絵が特徴で、長崎では有名な方である。
堤さんの絵は、長崎県内各地で見ることが出来る。

狸の絵が印象的なので、「狸けんじ」さんと間違って覚えている人も多いのではなかろうか。

堤さんと関係者による記念撮影。
長崎街道の雰囲気を出すために、武士も参加している。
後で聞いた話だが、坂本龍馬もいたそうだ。

急きょ、高校生が狸役にさせられた。
着ぐるみに革靴のアンバランスさが、何とも良い感じ。

郷土史家の山口八郎先生。
諫早の歴史を面白く興味深く伝えてくださる、とても熱心な先生だ。
このような方は、地元の財産である。

テレビの取材を受ける堤けんじさん。
後ろは、旅人に扮した狸の石像だ。
可愛く出来ていて、なかなか良い。

「久山茶屋 長崎街道絵巻通」。
両方の壁に、各宿場や道中の絵が描かれている。

下書きを堤さんが書き、地元の子供たちが色塗りをした。
落書きなどされずに、ずっと綺麗なまま残ってほしいものだ。

式典が終わると、そのまま歴史講座が始まった。

みんなで高速道路の橋脚をくぐり、飯盛町方面へ向かう。
細い路地を右折し坂道を上ると、やがて、左手に旧茶屋の井戸が見えてくる。

坂本龍馬も飲んだ!?と言われるが、龍馬がこの道を通って長崎へ向かったかは定かではないそうだ。

坂本龍馬が飲んでいないとしても、長崎街道は歴史上で有名な人物が多く往来しているので、誰かは、この井戸の水を飲んだであろう。
旧街道の風情を残す貴重な井戸である。

残念なことに、現在は飲用には向かないとのこと。

堤けんじさんが書いた立て札。

かつて、旧街道沿いには松が植えられていた。
いま、往時の姿に戻すため、地元住民が松を植えている。

井戸を後にして、長崎方面へ旧街道を進む。

思えば、このように旧街道に沿って歩くのは、初めてだ。
歴史好きを自任していたが、何故か街道とは距離を置いていた。
大村市の松原宿など、宿場があった場所を訪れることはあったが、宿場を結ぶ街道には、全く興味が無かった。
歩くのが面倒くさい、何も残ってないなど、無意識のうちに思っていたのだろう。

実際に、江戸時代の人たちが往来した道を歩くことで、当時の雰囲気を感じることが出来るというのは、至極当然のことだが、そのためには、このように景観が維持されていることが前提となる。

そう考えると、今回の「久山茶屋 長崎街道絵巻通」の完成記念式典は、決して大げさなものではない。
「昔からあるもの」を磨き、維持することで、それが地元の誇りとなり、人の心を惹きつけるものとなる。
この地域の人は、長崎街道を訪れた人が、がっかりしないように景観を守っているという。
これこそ、マーケティングに適った顧客満足の第一歩だと思う。

こういう先進的な地域の活動が結実した今回の完成記念式典は、もっと大々的にやっても良かったのではないだろうか。

また、「歩く」という行為自体が良い。
五感に響くだけではなく、実際に歩くことで、江戸時代の旅人と同じ苦労を体感することが出来る。
ありきたりな表現であるが、歩くことで江戸時代を疑似体験することが出来るのだ。
これにより、歴史を数倍深く理解することが可能となる。
街道歩きの魅力は、これだと思う。
実際に歩くことで、それを認識することが出来た。

坂道を登りきったところにある休憩場所。
ここからは、大村湾を見渡すことが出来る。

おそらく昔の人も、この地で、しばし休息したであろう。

彼杵郡喜々津と高来郡久山を分ける郡境の碑。

歴史講座でも説明があったが、街道は北風や日差しを避けるように場所を選んで造られているという。

そういう視点で歩くと、よりいっそう楽しさが増して良い。
やはり、いろいろ勉強が必要だ。


今回の街道歩きは、ここまで。

これより先は人形や植木で有名な古賀、そして、矢上へとつながる。
機会があれば、この先も歩いてみたいものだ。

ここ久山茶屋付近のほかにも、赤松坂や破籠井などに、街道の往時の面影を残した場所がある。
近くなので、季節を選んで、ぜひ行ってみたい。

また、久山町には磨崖仏三十三観音という遺跡もある。
近くでも行ったことがない場所が、意外と多い。
行かなければならない。

大乗妙典六十六部塔。

六十六部とは、全国六十六カ国の国分寺や一の宮に、法華経を納める諸国を巡る僧のことで、大乗妙典とは法華経の別名である。
この塔は、源左衛門という修行僧が天下の安定と気候の温順を祈念して納経をおこない、そのしるしとして建立された塔である。
(諫早史談会による説明書より)


街道沿いと分かりづらい場所にも、松が植えられている。
植えたばかりで松は小さいが、大きく育てば、新しい名所になるに違いない。
再び「久山茶屋 長崎街道絵巻通」。
一見の価値あり。

今回、何気に参加した「久山茶屋 長崎街道絵巻通」完成記念式典だったが、初めての街道歩きも体験できて、とても得るものが多い一日となった。

この素晴らしい遺産を久山町だけのものとせず、諫早市民の財産として、広く周知させることが大事である。
諫早市の観光振興は、市民へ地元諫早の素晴らしさを伝えることから始まるのだと思う。

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