射習得に役立つ『射法八節図解』を基にした「解析図」の研究

.はじめに

「教本」に収録され、どこの道場にも掲示されている全日本弓道連盟刊行『射法八節

図解』(【図 1】以下『図解』は、木村武山画伯(横山大観画伯と同時代の日本画家)の筆からなる力強く緻密に描写された姿図を、第6代中野慶吉会長が解説されたもので(弓道04年4月号会長講話より)、初心者はもとより弓に精進する者全ての規範となるものであります。

しかし、『図解』は射法八節の姿図それぞれの要点に関して詳しく解釈されていますが、「打起し」から「引分け(注)」への受渡し(以下「受渡し」)のような節相互の関係や流れについては殆ど言及されていません。

こうした点を明らかにするために、『図解』から「打起し」、「引分け」、「会」等の図を取り出し目・耳・口・うなじ・乳房・へそ等を同一レベルにして節相互の姿図を並べ、勝手肘先の動き、位置、肘の張り方、弓と押し手の角度や移動などが検討できる「解析図」を作りました。明らかとなった節間の移行の重要ポイントで、初心者の正射習得に役立てて頂きたいと願っています。

注、 弓道八節は【図1】の通り、それぞれ動作が完成した姿が節名となっている。その中で「引分け」

だけが「打起し」から「会」に至る途中の動作が節名になっている。「解析図」を解説する上で、「引

分け」を本論では「大三」と称することにした。従って、「打起し」−(受け渡し)―「大三」−(引き分

けの動作)―「会」となる。

. 受け渡しにおける勝手肘先の前後方向の働き 【図 2

受渡しで「大三」の勝手肘は「打起し」位置より後方(斜線部分)に引き込まず、矢線前後方向にはほぼ同じ位置となる。押し手の押し開きに従って勝手肘は自然に曲がり結果として勝手の手首部分が額のほぼ前に来る。この時、勝手肘先は押し手についていかず、勝手側に引かないことが重要なポイントである。

. 受け渡しにおける勝手肘先の上下方向の働き 図 3

「打起し」は約45度の角度(体格により±5度)で打ち起こすことが基準となっている。「打起し」の勝手肘先は「大三」で打ち起した位置から(前項の通り)後ろに引かず、約10cm程度上方向移動しながら上方向に張る。打ち起こしを45度以上高くし過ぎると、受け渡しで肘先が上方向に移動する位置以上に初めから高くなれば、「大三」で肘先は高いままか反対に下方に移動することになり、張りが無く詰まった張りとなる。従って「打起し」は45度の基準を守り、むやみに高くしないことが重要である。

4. 矢線と押し線の角度図 4

「打起し」から「大三」までは弓を握り締めず回るに任せ真っ直ぐ押す。「大三」からの引き分けで「会」までは手の内が弛まないように握りを締め矢線に向かって真っ直ぐ押す。「大三」で押し線との角度は「解析図」では33度、「会」で押し線との角度は19度。したがって会では弓が「大三」から「会」までの角度14度捻じられて手の内が締まる。これがトルクとなり弓返りと鋭い離れの根源となる(角度は個人差があり、参考値)

弓では「打起し」から「大三」まで弓を握り締めずに所定の位置まで自然に回るが、ゴム弓は回らない。その為に弓の「大三」の位置でゴム弓の手の内を作り、その状態を保持したままゴム弓を「弓構え」位置に戻し「打起し」を経て「大三」に至る、以後は弓と同様感覚で引く。

. 引き分け時の押し手と勝手の移動距離等 図 5

「大三」から「会」への引き分けでは押し手の移動距離は′、勝手は′。移動量は勝手が押し手の約5倍である。引き分けの基本は、両肩の線と矢線は平行に保ちつつ胸の中心で押し開くことである。押し手は移動量が少ないので、勝手に負けないように

押し手を矢線方向に押すが、往々にして終点となる会の位置に向けてACに押すことになる。こうして会になる前に押し手が的割りを過ぎると、会で元に戻す(緩む)こととなり会が縮じみ伸びが無くなる。こうなると左右のバランスが崩れ引き分けの中心が押し手肩側に移って、大離れ、正射とならない図 5 下段

「長生ゴム弓」を引く場合も、矢線と両肩の線を平行に押し開く練習が重要で、引き分けの中心が押し手側にずれて歪むと、ゴムで頬を払う(カスル・弾く)とか押し手にゴムが当たることになる。ゴムで頬を払ったリ押し手を打つ時は正しく引かれていない証拠で、正射か否かの自己判断が可能となる。

6. まとめ

平成14年、日本武道学会弓道』専門部会シンポジュウムに於ける「生涯の弓に影響する初心者用ゴム弓について」で、ゴム弓は大三で張力が無ければ引き過ぎる癖の原因になることや、正しい勝手の位置と移行など「解析図」の一部を引用して発表した。

『図解』に表現されていない大三で肘先の張りや受け渡しなどの節相互の重要ポイントを説明した「解析図」を、『図解』の補助教材として初心者の効果ある正射指導に活用頂ければ幸いです。

             六段 錬士 小嶋 幹夫